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Sunday, May 19, 2024
2022年 4月 29日

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そのTELは名古屋市内にあるレコード店からだった。「もう店じまいするので在庫を買い取って欲しいんだけど、いくらになるか、一度来てください。」というものだった。店を持たずに毎月一度の中古レコードセールをやりながらの最大のネックは、とにかく商品が集まらないこと。だからこの話は本来なら飛び上がらんばかりに喜ぶところだ。しかしハタと困った。ニューヨークヘ行くにも金がかかる、レコード買うにも金がかかる、だけどボクには金がない。この二者択一には大いに困った。「明日、伺います」TELを切ったボクは一晩寝ずに考えた。

商品が大量に入れば毎月一回の中古レコードセールも当分の間安泰で、お客さんにも喜んでもらえるし収入も増え生活も楽になる。

悪魔が耳元でささやいた。「小さな理想など何にもならんゾ。世の中、金が全てじゃ。」うーヤバイ。次に天使がささやいた「今は、おのれを磨く時期だぞ。自分の理想を信じ、まっすぐ進むのじゃ、今がその時であるぞよ。」

フランスの文学者のことばに「古本屋の無い所に文化は無い」という言葉があるけれど、音楽に置き換えれば「中古レコード店の無い所に文化は無い」ということになる。そして名古屋には中古レコード店が無かった。

そして、画家の横尾忠則の言った「男は27歳までに海外を見ろ」というセリフと若き日の竹村健一がアメリカヘ渡った時、「当時、銀座で一番高いビルは8階建てだったが、エンバイヤーステイトビルディングを見たとき、そのスケールに感激し涙が出てしょうがなかった。」という二人の言葉がボクの記憶から蘇った。

ジャジャーン♪ ボクはやっぱりニューヨークヘ行こう。良い物を作るには良い物を見ることだ。百聞より一見だ。翌朝、家族にそのことを告げた。ボクはひとりっ子で大切に育てられてきたので、母親はニューヨークヘ行くと言った途端心配で寝込むし (本当の話)、親父はニューヨークって何処だ。エゲレスか? とわけの分からんこと言うし、女房はあなたがニューヨークで殺されたら私どうすれば良いのと泣き付くし…

ソーホーにて

ソーホーにて

えーい、うるさい!男はな、一度決めたことはやらなイカン。ダテに2つの会社デューダしたんじゃないぞ。男にとって大切なのは理想と信念を曲げんガッツだ。ここで引き下がったらオテントウ様に申し訳ない。計8年間、英語も勉強したぞ。 ″マイ・ネーム・イズ″ …? ″ジス・イズ・ザ・ペン″ だ。どうだアメリカ人! ″渡る世間に鬼はない″ をキャッチフレーズにボクはリュックサックひとつにあり金150万円をポケットに詰め込みニューヨークへ向かった。

ハワイ上空で朝日を見ながらモーニングコーヒーで乾杯し、武者震いしたのを今でも思い出す。

しかし、そんな心意気とは裏腹に入国審査で ″無職の分際でそんな大金持ってこのままアメリカに居着くつもりか″ としつこく尋間をうけるわ、旅券発行ミスで200ドル余分に払わされるし、乗り継ぎの関係で一泊したロスアンジェルスではタクシーにカモられたあげく、そのタクシーの中にパスポートを落とし、挟んでおいた2万円を盗まれて警察沙汰になるし。次の日、やっとの思いでニューヨーク空港に着いたと思いきやボクの荷物だけ無い。どうなってるのと聞いたら ″ゴメン、ゴメン。君の荷物だけデンヴァーに忘れてきちゃった″ 怒るぞコンチネンタル航空。これじゃ?歯も磨けん。そんな訳でニューヨークを目前に控えボクは空港そばのペンペン草の生えたニュージャージーのしょうもないモーテルで無駄な一日を過ごしたのでありました。この時ばかりはあまりの不運続きの自分の旅に今後の不安がよぎりシャワーを浴びながら思わず涙が出た。トホホ…

次の日の夕方、コンチネンタル航空からリュックを取り戻したボクは一日遅れでやっとのことでニューヨークヘ第一歩を踏み入れた。

アパートにて

アパートにて

しかし悪い予感がまた的中した。それは日本で調べていった住所を頼りにアパートメントホテルに向かう途中、42丁目で起こった。当時42丁目はネオンギラギラのポルノ街で、ポン引きとかヤクの売人がズラリとならび頻繁に声をかけてくるかなりヤバイ所だった。へえ―とか、ふ―んと思いながらキョロキョロよそ見していたボクは、黒人のチンピラの肩に激しくぶつかった。そいつは黄色い歯をムキ出して何やらギャーギャー言って怒ってる。ボクは ″アイムソーリー″ と言えばよかったのだが、2メートルを超す巨漢の黒人を目の当たりに見て ″ゴ、ゴリラだ!″と思い、体がすくみ、何も言えなかった。首根っ子を捕まれたボクは振り回され、一発パンチを喰らって道に大の字になり目から星が出た。そいつは何か悪態をつきながら去って行ったが、逆にこの一発で度胸がついた。 ″無礼者!大和魂を知らんのか。いざとなりゃー特攻隊だぞ!″ とわめき、走って逃げた。

やっとたどり着いたアパートメントホテルはボロボロで、バスとトイレはワンフロアに1か所の共同で、おまけにバスタブが壊れていてシャワーしか使えない。

ある日、ウンチしていたらドアを激しくノックされ ″部屋のカギを忘れた。開けてくれ" と言われ、オシリを拭く問もなくボクはガニ段でドア越にカギを渡したこともある。夜ともなれば5分おきにパトカーのサイレンが鳴り響き寝つけない。だけど、日本では味わえないそんな環境がとても気に入った。さぁ、ボクのニューヨーク体験の始まりだ。

NYのレコード店にて

NYのレコード店にて

ニューヨークでの生活は、まず朝8時に起きることから始まる。ボクのアパートメントホテルの裏が公営の駐車場になっていて車の騒音がうるさくて、イヤでも目が覚める。そして夕方までレコード店を見てまわり、夜に一度部屋に帰って、それからライブハウスヘと繰り出し夜中の2時に帰って寝る。というのが一日の行動パターンだ。

見知らぬ土地での生活は、何をおいてもまず土地カンを身に付けることだ。75ドルで〈フラッシュマップ〉を買う。これはマンガみたいな地図だけど、カラーでとても分かりやすい。その地図を持ってエンパイヤーステイトビルに昇る。原始的な方法だけど、高いところから見渡すのが、土地カンを身に付けるには一番だ。晴れた日には120km先まで見渡せ、雨は下から降るというエンパイヤーステイトビル。名所にはあまり興味がないボクだけど、102階からの眺めはひたすら感動する。

そこから落下傘で飛び降りて、警察に捕まった奴がいるというから笑える。土地カンをつかんだ後は情報収集だ。それにはグリニッジヴィレッジを基点に文化の動きを報道する〈ヴィレッジヴォイス〉と、新しい文化の中心地ソーホーから出た〈ソーホーニュース〉の2紙を手に入れる。この2紙でニューヨークでの音楽・アートの情報はほとんどカバーできる。あと見逃せないのが〈ニューヨークタイムズ〉の日曜版。85セントでなんと電話帳ぐらいの分厚さで、ペラペラ見てるだけでも30分は楽しめるし、ART&LEISUREのコーナーは要チェック (ある日、その日曜版を抱えてアパートに帰る途中、ジャックナイフを持った奴に脅かされたけど、とっさにボクはその日曜版をそいつの顔に投げつけ全力で走って逃げた。この分厚さは武器にもなるのだ)。次はイエローページのレコードショップのページを破いて失敬してレコード店とライヴハウスの場所を地図に書き込む。これでボクのニューヨークマップの出来上がりだ。

デッド・ボーイズ CBGBにて

デッド・ボーイズ CBGBにて

さあ、行動開始。何をおいてもまず、レコード店!大型チェーン店を見てもあまり面白くないので、個性的な店の多いソーホーやグリニッジヴィレッジヘ向かう。10万枚の在庫を誇り、お店というより倉庫って感じの〈キング・カロル〉、レゲエ・サルサに強い〈イン・ユア・ヘッド〉、オールディーズ専門の〈ビッグ・ヒント〉。ジャズの〈デイ・トーンズ)。オシャレでアメリカにしては小ぎれいな〈ソーホー・ミュージック・ギャラリー〉、この店は店員がみんなカッコいい。廃盤専門の〈インフィニティー〉、パンク・ニューウェイヴの〈ジグザグ〉。プログレ・ニューウェイヴが多い〈フリー・ビーイング〉。安さと量で勝負するレコードのスーパーマーケット〈サウンズ〉等など、何処へ行っても金太郎飴の日本のレコード店とは違い、各店が主張を持ち自由で伸び伸びと好き勝手にやってるという感じは、レコードを売るという行為そのものを根本から考えさせられるいい機会だった。夜のライヴハウス巡りも刺激的で〈クラブ・57〉、〈マッドクラブ〉、ニューウェイヴのメッカ〈マックス・カンサスシティー〉、〈TIR-3〉、アル中がうようよしてて、行くだけでも怖い〈CBGB〉、特に月曜日は新人の日でヴァイオレンス度はバツグン。

毎日、レコード店やライヴハウスに足を運びその雰囲気、ビジネスの仕方を体感し日本へ帰って自分が作るであろう〈店〉についてボロアパートで思いめぐらせた。そしておぼろげながら少しずつ何かが見えてきた。それは商売としてだけのレコード店ではなく、僕らのための僕らの同時代感覚として成立する…存在感としてのレコード店。それを作らなければ意味が無い、でもその答えはどこにあるのだろう? そんな悩みとは裏腹に街は活気に溢れ時間がどんどん過ぎて行く。

ストリートミュージシャンと大道芸人で毎日がお祭騒ぎのワシントンスクエア、ある日、ベンチで体憩してたらギターを持った黒人のおじいさんに「お前、ブルースを知っとるか?」と言われ「うん、エルモア・ジェームスは最高さ!」と答えたら、「エルモア? そういう若僧もいたな?」と嘘ぶき「お前。まぁ、俺のブルースを聞いてゆけ。」そう言って歌いだした。もう一度聞け。もう一曲と言われ、結局、同じ歌を5回も聞かされた、ライヴハウスの〈TIR-3〉へ行ったときには切符切りのお兄ちゃんに「お前日本人か?ちょっと待て」と言われ、何だろう?と思ったら黒人を連れて来た。

黒人には、一度殴られているので。一瞬身構えたが、その切符切りのお兄ちゃん「こいつ肺の調子が悪くて近々東京の病院に行くんだけど、いろいろ教えてやってくれる?」って言われ。困ったなーと思ってたら、その黒人いきなり「あのー、芸者とヤリたいんだけど、いくらかかるか教えてくれる?」だってボクはズッコケた。「高くて手が出ないよ (ところで芸者ってヤレるのか?) それより六本木のディスコヘ行ったらどうかな?黒人モテるよ。」と言ったら、すっかり気を良くしてビール2本おごってくれた。他にも思い出に残ることは多くて、LAでインチキ指圧をやっていたA氏。元全共闘の闘士B氏。極真空手NY支部のF師範(彼の家には一晩泊めてもらい、一晩中飲み明した)。自称 ″国際的放波者″ で地に足の着かない夢みたいなことばかり言ってた沖縄出身のNさん。

そんな思い出をぎっしり詰め込みなが鉄板とコンクリートの街、そして人間は強くなければいけない事を教えてくれたニューヨークに別れを告げ、次の目的地サンフランンスコヘと向った。

それは、学生時代に強く影響されたヒッピー文化の終馬をこの目で確かめ、しがらみを断ち切り、新しい自分のステップにするために聖地「ヘイト・アシュベリー」に向う旅だった。しかし、そこでボクが見たものは…

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